興国寺境内

興国寺の亀と鶴

須坂市臥竜にある臥竜山興国寺。
慶長7年(1602)年の開山、松平忠輝より臥竜山を永代寄付され、また徳川家光より15石の朱印地を与えられました。
須坂藩主堀家の菩提寺として須坂の信仰を集めた由緒あるお寺です。

興国寺の本堂と庫裡(クリ)の間の屋根の上に「亀」と「鶴」の彫刻が飾られています。
この彫刻にまつわる伝説が今も語られています。

 

 


むかし、臥竜山のふもとに興国寺という大きなお寺がありました。

あるときに、本堂の玄関に飾る彫刻を作ることになりました。
やがて、立派な亀の彫刻が出来上がりました。
その亀を見たお坊さんはびっくりしました。なぜなら亀の頭が竜の格好をしていたのです。

「これは珍しい亀ですな。」
亀はまるで生きているようでした。

亀の彫刻が完成してから一ヶ月ほどたつと不思議なことが起こりました。
寺の脇にある池の魚がだんだんいなくなるのです。そのうちに臥竜山のふもとにある池の鯉が一匹、二匹と消えてしまいました。

ある晩、「トントン」と戸を叩く音がしました。
お坊さんが戸を開けてみると村人が立っていて、お坊さんに伝えました。

「実は田畑が荒らされて困っております。」
「稲も踏み倒されているのです。」
「まるで竜が暴れたと思われるほどひどいのです。 」

村人の困り果てた顔に、お坊さんは
「では、田んぼの番をすることにしましょう」
と言いました。

次の晩、お坊さんと村人は田んぼの番をすることにしました。
田んぼの周りはしーんと静まり返り、百々川の音だけがかすかに聞こえていました。
小高い臥竜山が、竜の背のように夜空に浮き上がっていました。
月が雲に隠れて、一瞬暗くなった時です。
土手のむこうで、ドンと音がしました。みんなは、ハッと息をころしました。
と、稲の束が闇のなかに舞い上がりました。すると、そのむこうに、大きな竜の頭が現れたでありませんか。ふたたび顔をだした月のあかりなかで、その背中が浮きあがりました。丸っこい模様が光って見えました。

「お、お坊さん、ど、どうかおたすけを・・・」
村人は頭を抱えて、わなわなと震えているだけです。
お坊さんは、数珠を高く掲げると、怪物に向かってお経を唱え始めました。
すると、不思議なことにその怪物は土手の向こうに消えていきました。

怪物が消えたことを確かめると、お坊さんは一目散に駆け出しました。
そして、ちょうちんの灯りをともすと、本堂の玄関に駆け込みました。
そこで、お坊さんはまたまたびっくりしました。
足が釘付けになって動けません。

あの亀の彫刻が、すっぽりとぬけているではありませんか。

「ああ、魚をとったのも亀の仕業か・・・」
お坊さんはがっくりしました。

翌日、お坊さんは村人をお寺によびました。
「こんなことになろうとは、夢にも思っていませんでした。なんとお詫びをしてよいか・・・」
お坊さんはそういって深々と頭を下げました。そして、村人の前で亀を釘で打ちつけてしまったのです。
でも、動けない亀を見上げるたびに、お坊さんは気の毒になってきました。
そこで、亀のすぐそばに綺麗なツルを飾ってやることにしました。
村人たちはそんなお坊さんを見て、
「心優しいお坊さんですなぁ」
「徳の高いお坊さんで、私たちは幸せですわ。」
「それにしても見事な亀ですな。興国寺の宝ですよ。」
と、噂をしあいました。

その亀は、美しいツルと興国寺に今でもじっとしているのです。

興国寺の亀と鶴

住所:興国寺境内
名前:興国寺の亀と鶴
取材日:2011/05/25
更新日:2021/10/26

参考文献

ふるさと須坂<須坂市教育委員会>
名勝臥竜公園の自然と歴史と文化<田子昭治編著>

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