叒譜とさくらのこころ

全国さくら名所100選に選ばれた長野県須坂市の臥竜公園では、臥竜池を囲むように植えられたソメイヨシノが今年も満開となっています。


先日受けた講義の一部から


須坂市立博物館には、須坂藩13代藩主堀直虎によって図写された「叒譜<ジャクフ>」が所蔵されています。
叒譜の中には、178種もの桜の絵が描かれているのです。

元々の原本は「花譜」という本です。

叒譜は直虎公が29~30歳の時に書いたとされていますが、
それでは何故、直虎公は「叒譜」としたのでしょうか?

それは「夫叒者東方秀気之所鍾生而我・・・」から始まる序文を読むとわかるのですが、
その文は漢詩によって書かれているために、一般の方には読み理解することは困難です。(僕もできませんが・・・)

そこで、以下に「叒譜」の序文を少し簡単に解説することにします。

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叒は「神の木」で東にある秀気の集まる国、この日本にだけ生えている。
中国の本では「扶桑<フソウ>」として紹介され、桃がそれに当てはまるとされるがそれは間違いである。

「叒」の姿とは春の陽射しを浴び、花の蘂や花弁までピンク色で艶やかで、花の姿は明るく妖艶である。
その姿はまさに「桜」であり、桜こそ神の木「叒」である。

多くの人々は桜を見ているが、酒を飲みながら、又は団子を食べながら観賞するだけで、この神の木を細かく観察したりその花の真性を知ろうとはしない。

私は「花譜」を「叒譜」と改め、忠実に写しとり少しでもその真正に近づこうと思う。

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このような内容で、直虎公のこの叒譜を書く上での意気込みが序文として書かれているのです。


この「叒譜<ジャクフ>」には。現代の桜の代名詞「ソメイヨシノ」は描かれていません。
ソメイヨシノは明治時代以降に作られ全国に広まった園芸種なのです。

江戸時代から明治時代に変わる際「文明開化」といわれる、文化の変貌が起こりました。
新しい文化を受け入れた人々は、それまで無かった「ソメイヨシノ」という新種をも受け入れ、「花が一斉に咲く」「根付きが良い」という特徴をもったソメイヨシノを沢山植えたのです。

それは正に
山に咲く1本1本違った花をつける山桜を美しいとしていた美感覚から、沢山の桜が一斉に咲く姿を美しいとする美感覚へと変化した
「日本人の美の変化」でもあったのです。


その変化は決して悪いことばかりではなかったことはその後の時代経緯を見ればわかるのですが、
文明開化の流れで多く植えられたソメイヨシノは、
「新しきは良い」「古きも良い」
ということを伝える存在であるといっても過言ではないのです。

叒譜を解読することにより、今とは違った昔の人々に美学が見えてくるのです。



▼平成19年度須坂市立博物館特別展示
「叒譜のこころ」
展示解説 博物館館長 涌井二夫先生の講義。



日本人は桜が好きです。
僕も桜が好きです。

好きでありながらも、眺めるだけでその姿を観察することはありませんでした。ましてや美学について考えることも・・・。

博物館に所蔵されている「叒譜<ジャクフ>」という本を知り、解説を受けたことによって、須坂市のあちらこちらに自生する桜や、臥龍公園のように植えられた桜を去年とは違った視点で花見が出来ます。


この「叒譜」は「花譜」を忠実に写したという美術芸術的な評価だけでなく、過去の文化美学を現代に伝えているという点でも、とても貴重な資料といえるのです。




叒譜とさくらのこころ


名前:叒譜とさくらのこころ
取材日:2007/04/21
更新日:2021/03/05

参考文献

平成19年度須坂市立博物館特別展示
「叒譜のこころ」
展示解説 博物館館長 涌井二夫先生の講義

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